ヴォイニッチ手稿
絵から読み解く


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はじめに
ヴォイニッチ手稿については、これまでさまざまな解読の試みが行われてきました。ここでは、そこに書かれている文字や、描かれているものが「何なのか」を、少し別のところから考えてみます。

この写本の図は、単に何かを描写しているのではなく、何らかの「関係」や「体系」を図の上に組み立てているようにも見えます。

もしそうだとすれば、それはいったい何の体系なのでしょうか。 私はその可能性の一つとして、「音楽」という視点から、この写本を考えてみました。

随時更新する 詳細な考察は、このページ下にあります。

1. ヴォイニッチ手稿を「体系を考えるための図」として読む可能性
ヴォイニッチ手稿の図像を考える上で、まず注目すべきなのは、個々の植物や人物が何を意味するのかという問題以前に、図そのものが非常に強い構造性を持っていることです。

特に植物の図には、自然界の植物をそのまま観察して描いたものとして見ると、不自然に感じられる特徴があります。根、茎、葉、花といった要素が、単に植物の外観を再現するためではなく、一定の秩序を持つように配置されているように見えます。

つまり、そこには、自然に存在する植物を記録したというより、植物という形を利用して、何らかの構造を人工的に組み立てている可能性が考えられます。

同様のことは、人物と水の図にも見られます。多数の女性が水の流れに沿って連続的に配置されている構成は、通常の人物画や自然風景として見るには不自然であり、一定の順序や関係を意識して構成されているように見えます。

さらに円形の図も、自然に存在する対象を写し取ったものというより、中心、周囲、分割、反復、循環といった関係を幾何学的に組み立てた図として見ることができます。 このように考えると、植物、人物と水、円形図は、一見するとまったく異なる種類の図でありながら、共通して、

「何かをそのまま描写する」のではなく、何らかの関係や体系を図の上に構成している」 という特徴を持っているように見えます。

「何を描いているのか」をただちに特定することはできません。しかし、少なくとも、何らかの構造体系を示しているという視点から考えることはできるでしょう。

では、その「体系」とはいったい何なのでしょうか。

2. 既存の解釈だけで、全体を説明できるのか
では、その「体系」とはいったい何なのでしょうか。

宇宙論・占星術 であれば、円形図、周期、配置などは比較的よく説明できます。しかし、それだけで植物の人工的な構造や、水の流れに沿った人物の連続的な配置まで、一つの原理で説明するのは難しいように思われます。

自然科学・博物学 であれば、植物の図は説明しやすいでしょう。しかし、そこに見られる植物は通常の植物図鑑とは異なる構造を持っており、人物、水、円形図まで同じ体系に組み込むことには難しさが残ります。

医学・薬学 なら、植物、水、人体という組み合わせには意味を与えられます。しかし、円形図や反復的な配置を含めて、一つの構造として説明するには、さらに別の仮定が必要になります。

暦や時間の体系 なら、円環、周期、水の流れ、人物の連続配置などを説明できる可能性があります。一方で、植物の構造的な描写を同じ原理で説明するには、なお検討が必要です。

錬金術や自然哲学 は、さらに広い範囲を説明できる可能性があります。しかし、その広さゆえに、逆にさまざまなものを説明できてしまい、図の構造そのものから特定の体系を導くことが難しくなります。

もちろん、これらの可能性を否定することはできません。
しかし、ここで一つの別の可能性が浮かび上がります。
もし、これらの図が「音楽」という体系を考えるための装置だったとしたらどうでしょうか。?


3. 植物・人物と水・円形図を音楽の視点から読む
音楽、とりわけ対位法では、複数の声部がそれぞれ独立した動きを持ちながら、時間の中で互いに関係し合い、一つの曲を形成します。

この視点から三種類の図を見てみると、それぞれが様々な側面を表しているようにも考えられます。

植物の図――縦の関係
植物の根、茎、葉、花には、階層的な構造が見られます。それぞれの要素が独立して存在するのではなく、互いに関係しながら一つの形を形成しています。

これを音楽に置き換えるなら、一つの音型を構成する要素同士の関係や、一つの音型が変化・展開しながら、一つのモチーフとしてまとまっていく構造を連想させます。

人物と水の図――横の流れと時間

人物と水の図では、多数の女性が水の流れに沿って連続的に配置されています。

そこには、始まりと終わりが明確に規定されていないように見えるものもあれば、比較的短くまとまったものもあります。また、一人の女性の身体から複数の方向へつながるような構造も見られます。


これを音楽用語に置き換えるならば、こうしたイメージは、旋律、フレーズ、メリスマ、あるいは声部や小節といった音楽的要素の模倣や連結をして、音楽的な音型が時間の経過とともに変化し、様々な長さのフレーズやカデンツを形成していく構造を想起させるかもしれません。

現在の五線譜では、時間の流れは横方向に展開されます。この図もまた、要素が横方向へ連結し、流れを形成する構造として見ることができます。

さらに、要素同士が水の流れを介してつながっているように見えることから、一つの音型が次の音型へ受け渡されるようなより長いメロディーの関係を想定することもできます。

興味深いことに、水の流れの多くは、放射状の線を持つ円形構造の端から生じています。この構図は、流れを生み出す何らかの仕組みが存在する可能性を感じさせます。

円形の図――仕立て屋
円形図には、似たものや単独のデザインなど、さまざまな種類があります。また、いくつかはグループ分けできるようにも見えますが、その種類自体はそれほど多くありません。

特に、沢山の女性たちが輪を作っている中央で、弓矢を構えた人物が描かれた図があります。

この人物は、何かを選び取る作業を象徴しているようにも見えます。もし円形図が、モチーフを選別するなど、さまざまな方法でモチーフをフレーズに仕立てる工程を表しているとすれば、ほかの円も、それぞれ異なる作業工程に関連する図である可能性があります。

例えば、中央の動物を、あたかもモチーフを大きく育てる作業をしているかのように、周囲の多数の女性が何らかの働きかけをしているように見える図や、モチーフをいくつかに分割する図、回転させる図、バランスを取る図など、モチーフをさまざまな方法で仕立てる作業の図として見ることもできます。

すると、円形の図は、モチーフやフレーズの流れをさまざまに加工する専門的な作業を表しているとも考えられます。そして、そこで仕立てられたモチーフやフレーズが、女性と水の図における流れへと反映される、と考えることもできます。

4. 三種類の図の関係
この三種類の図は、それぞれ異なる側面から、対位法を連想させる音楽的な作業を示しているとも考えられます。

  • 植物=縦: 音型を構成する要素の関係
  • 女性+水=横:音型やフレーズの時間的な流れ
  • 円=仕立てる:モチーフを加工し、組み合わせる技法

この三種類の図は、それぞれ異なる側面から、対位法を連想させる音楽的な作業を示しているとも考えられます。

5. 文字と口伝
もう一つ考えておきたいのは、この写本に書かれている文字の役割です。
この時代には、知識や技術が実技を伴う口伝によって伝えられていた可能性も考えられます。

もしそうであれば、ここに書かれている文字も、必ずしも文章を読むための文字だけではなく、図とともに技術や操作方法を伝えるための記号である可能性も考えられます。

ここで注目したいのが、この写本の中でも、特に大きな見開きページです。

6. 音楽を生み出す体系を示す大きな見開き図
ここには、中心の円と、その周囲に配置された八つの円が描かれています。そのうちいくつかは中心と接続されていて、当時の錬金術の説明図にも似た構造が見られます。

しかし、ここに現れる円は、先に見た個々の円形図とは少し異なるものと考えられます。すなわち、周囲の八つの円は、単独の作業とは限らず、拡大させて端を揃える、変形させて移動させるなど、複数の操作を組み合わせる作業を請け負う、すなわち仕立て屋を連携させる仕組みを示しているのではないでしょうか。

このように、この大きな見開き図の構成を手がかりに、音楽の技術体系が図と口伝によって説明されていた可能性を考えることもできます。

以上のように考えると、このヴォイニッチ手稿は、知識を持つ者が図と口伝によって音楽を生み出すための体系を理解する、一種の技術的なマニュアルだった可能性もあります。

そして、興味深いことに、この性質は現在の対位法の学習にも通じるところがあります。

現在の対位法を習得する場合でも、単に理論書を読むだけではなく、実際に書いてみて、その結果をマスターから口頭で添削・指導してもらうという実技的な学習が重要です。

以上が、「ヴォイニッチ手稿は、作曲の仕組みをモデル化し、その技術を体系的に示したものであろう。」 という、ヴォイニッチ手稿についての図から読み解く一つの解釈です。

7. おわりに
この仮説が事実かどうかを確かめるには、写本そのものについての物理的・文献的な検証が必要となります。

AIによる解析手法が進歩している現在、図の構造、反復、配置、文字との対応などについて、さまざまな検証方法が考えられるのではないでしょうか。

丸山徹

注釈 対位法

ここでいう対位法とは、単に複数の旋律を組み合わせることに限らず、音型を変形・展開させ、模倣や相互の関係を通じて、一つの音楽を生み出していく、古くから現在でも続く、とても重要な音楽的技術体系を意味しています。

注釈 モチーフ
モチーフとは、音楽を生み出すための基本となる音のまとまりです。クラシック音楽、とくにバロック音楽では、冒頭に一つの特徴的なモチーフを提示し、それを模倣・変形・展開させながら、より大きな音楽の構造を組み立てていきます。

詳細な考察 植物は接ぎ木の造花だった?!
基本的に植物は、根、茎、葉、花、のパーツで構成されています。

しかし、ヴォイニッチ手稿の植物図には、特に気になる部分があります。それは、根と茎の接続部分です。多くの図で、まるで根の断面に茎を後から付け足したように描かれているのです。

自然の植物をそのまま描いたというより、いくつかのパーツを組み合わせて作られた、まるで「接ぎ木の造花」のようです。

とすると興味深いことに、写本の後半には、根に特徴のある植物群と、茎や葉に特徴のある植物群が、それぞれまとめて記載されているページがあるのです。

根が丈夫な植物群と、茎や葉が丈夫な植物群の一覧表
さて、それぞれが横に一覧表になっている列の先頭には、何やら筒のようなものが描かれています。

おそらく従来の仮説ではこれを器と仮定して、植物を煎じて調合するパーツと考えていたようです。しかし、根と茎を接続すると仮定すると、この筒は接続するためのアタッチメントとするのは筋が通るストーリーでは無いでしょうか?

それを裏付けるように、特に茎が長い植物群にはそれに対応した長い筒状のアタッチメントが描かれています。

アタッチメントの構造
それぞれのアタッチメントを比較すると、ある共通の構造が確認できます。それは、そのアタッチメント本体は2個かせいぜい数個の筒の組み合わせになっていて、一つだけ上下とも同じ太さのものがありますが、基本的に一番下の筒が太くなっていて、上の筒は細くなっているのです。

さて、根と茎を接続するのにアタッチメントが必要だとしても、根と茎の為にそれぞれ別にあると、その2つのアタッチメントはどの様にセッティングするのでしょうか?アタッチメントは一つあれば済むはずです。

その答えはその形状に有ります。

すなわち、根用のアタッチメントaの上の細い部分を、茎用のアタッチメントbの下の太い部分に差し込むようにして接続し組み立てるのです。逆に言えば、茎のアタッチメントbの下の太い部分を、根用のアタッチメントaの上の細い部分に上から覆うように接続し組み立てるわけです。

花咲きシステム
さて、このアタッチメントの使い方を説明する図が、本仮説で述べている仕立てる専門作業としての円の図の中にあります。

この図は、左が昼間の時、右が夜の時の状態を説明しているのは、中央に描かれている太陽と月の図で分かります。

左の昼の図には4人の女性がいます。上の人は左手で何かへ向かって指を指していて、右の人はアタッチメント類の一つであろう物を持っていて、左の人は草の一種らしき物 を持っていて、そして下の人は右手を土から伸びている棒に手を添えて、左手に輪が連結した何かのパーツらしきものを持っています。

右の夜の図には同じように4人の女性がいて、そのうちの二人の手には、花が咲いたような草を持っているようです。

この図から読める事は、

明るい昼間のうちに、良好な根の植物と、良好な茎や葉の植物とを接ぎ木し、しばらく様子を見て再確認すれば、きれいな花が咲いた事を確認できる確率は、半分くらいはあるだろう、

という様なストーリーが読み取れるのではないでしょうか? すなわち、この図はこの様な手順で花を咲かせることが出来る、「花咲きシステム」を示していると言えるのではないでしょうか? これを音楽制作の視点から見れば

組み立てたモチーフが良いか悪いかの判断は、一晩経ってから再確認してみよう。

と、よく言われるフレーズの事と同様だと理解できるでしょう。

この手稿がモチーフ作りのプロセスをこれほど詳細に記述しているのは、作曲における根本的な原則,すなわち「最初のモチーフが極めて重要である」という点を伝えようとしているからなのではないでしょうか?

なお、昼の四人の内の下の女性は、片手で下から伸びている棒状のものに触れ、もう一方の手には、大きな輪が複数連なっているパーツを持っています。 この謎については、後で改めて考えてみます。



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